ドローン空撮と印刷への挑戦

カテゴリー: report. 会員: 小野高速印刷(株).

趣味から空撮を目指して

おもちゃのラジコンヘリを飛ばしたのが切っ掛けで、飛行させる面白さを知った。次におもちゃのドローンを飛ばすのに挑戦したが、思うように飛行できず、4台壊してしまった。
ドローンの難しさと面白さにはまり込み、DJI社製 Marvic Proという本格的なドローンを買うことになる。本体だけで約12万円(オプションなどは別)だから、一眼レフ位の価格で思ったより安い。
上手く空撮ができるようになれば、印刷用に使える筈だ、と甘い期待をして購入したのだが、実は、これからが苦労の連続となった。
ドローンに関心のある方のために、私の失敗談が参考になればと思い、以下に纏めてみたい。
  
ドローンは二種類に大別されている。
・機体重量が200グラム以下のトイドローン(おもちゃ)と呼ばれる機種。
・   〃   200グラム以上の機体。
 トイドローンはおもちゃの分類なので、事故があった場合にも民事扱いとなるが、他方200グラム以上の機体は、航空法では「無人航空機」に属し、一人前の飛行機で、万一事故を起こすと刑事事件となって前科の対象となる。完全に航空機だから何かにハードルが高く、すべて航空法に基づいて飛行させなければならない。

ドローンの性能

当社が購入したドローンは、DJI社製 Marvic Proという。折り畳みができて軽く、小さいので携帯するのに便利だし価格が安い。一応4Kまで動画撮影ができる。
重量は、約800グラムだから、れっきとした航空機扱いとなる。この機体は、さすがに安定している。GPSや地磁気センサー、気圧センサー、衝突回避のカメラが前方についており、前方に対しては衝突しないようになっている。バッテリーも大きく、1個で約20分間飛行できる。万一のトラブルの際には、原則的にはテイクオフした場所へ戻ってくる。
飛行距離は、カタログ性能では4キロメートルの往復が可能とあるが、これは少々不安で、200メートルも飛行すると、どこへ行ったか肉眼では見えなくなる。
スペックにも惚れ込んで購入したのだが、操縦の基本は玩具のドローンと全く同じで、思う方向には飛んでくれない。その上、カメラ操作が増えることになった。
ジンバル付きのカメラが装着されていて、ドローンが空中でバタバタ動いていても静止した画像が撮れる装置が付いているのはありがたい。

操縦と撮影の難しさ

新しいMarvic Proも、入荷後何度も壁にぶつかり、カメラ部分やプロペラのアームを壊してディーラーへ修理依頼したが、約2週間掛かった。

何故、操縦が難かしいかというと、自動車や自転車は、自分が乗っているからハンドルを切った方向に車が向いてくれる。ドローンでは、操縦者は同じ場所で、ドローンだけはいろんな方向を向いて飛行している。ハンドルに相当するスティックにそのまま反応せず、方向によっては全く逆の方向に飛行するので、とても空撮どころではない。
 購入してからは、家の中で飛行練習をしていたが、プロペラの回転音が大きいので、家内は部屋の中でドローンを飛ばすのを嫌がり、邪魔者扱いにされるのには弱った。
昨今、ドローンの事故が多くて、屋外では悪いことをしているように、胡散臭そうにみられる。なるべく、わが家の座敷で飛ばすのだが、結構スピードがあって、少し操縦を誤ると直ぐに壁に激突してしまうのだった。飛行技術をマスターすることの難しさを知るにつけ、今更ながら、基礎から学ぶ必要性を痛感するようになった。

専門学校で学ぶ

ところで、ドローンの有効活用と普及を目指し、国交省と民間とが協力して作っている全国組織(UAV)がある。UAVがドローン操縦士の養成をするため全国に作っているJUIDAという団体があり、所属する学校が各地にある。 ここでは、3日~5日間の座学と飛行訓練を受けられるが、授業料は27万円から30万円以上と少々高い。
基礎から学ぶ必要性を感じていたので、ここの東京校を受講した。 航空法、気象学、電波法、電気工学などの座学とフライトの訓練がある。一番期待していた飛行訓練は想像以上に難しくて、トイドローンでの実技試験があった。トイドローンを使う理由は、万一GPSの補足数が少なく、位置が分からなくなった時や、センサーの異常など、トラブルが発生した場合、何処からでも手動操縦で帰還させる必要があるためで、事故と隣り合わせのドローンでは、これが一番大切な基本操作だと教えられた。 
 「操縦技能認定証」をとるためにJUIDAの学校へ行ったとき、何度もドローンをぶつけていたら、インストラクターが「自分らもドローンを壊しながら学んできた。オスプレーでも落ちるのだから」と慰められ、何だか安心?した気がした。

国の許可・承認を申請

ネットで調べると、神戸市も姫路市も殆どの地域が飛行禁止地区になっている。 早く飛行許可を取って、自由に飛ばしたいとの思いに駆られ、ネットで検索して国交省のホームページから「無人航空機の飛行に係る許可・承認」の申請用紙をプリントアウトして記入することにした。
書き始めてから、これは想像以上に面倒だ、と気づく。そこで、途中から行政書士に依頼することにした。
幸い当社には、動画の編集やデザインを専門にしている若手社員がトイドローンを持っていて練習していたので、後継者育成を考えて、JUIDAで 「操縦技能証明」を取得させ、同時に「安全運航管理者」の資格もとらせることにした。

厄介な地上権利者との交渉

国の認可承認さえとれば、どこでも自由に飛ばせると考えていたので、やっと認可をもらって安心したが、地上権利者の承認がなければ飛行させることはできない、と書かれている。厄介なのが地上権利者の承認を得ることで、国の認可よりも個人の権利の方が優先されるのだ。飛行ルートには安全確認のための要員を確保すること、とも書かれている。事実、飛行してみれば分かるのだが、ドローンは小さいので、直ぐに見えなくなり、地上の電線や樹木の枝など、ハッキリと見えないのだ。結構スピードの出るドローンをコントロールするため、山や建物など電波が入り難い場所での連絡の必要性を感じ、安全確保要員との連絡用に、予定外の強力なトランシーバーまで買う羽目になった。
土地には地上権が上空300メートルまである。飛行する場所には、必ず権利を有する誰かがいる。実は、これが結構厄介な問題だ、というのは後になって気付いた。いくつかサンプル用の空撮をした時に、早速この手続きが障害となった。 その時に役立ったのが「操縦技能認定証」と「安全運航管理者」の証明書を相手に見せると、案外安心して認可してくれるケースがあり、役立った。特に相手が自治体の場合は有効だ。空撮をする場合、クライアントが土地の所有権を持っていれば良いのだが、そうでない場合、誰がこの面倒な手続きをするのかが問題。道路の上空は国交省の管轄だが、国道の飛行は許可されない。河川敷や海岸なども管轄があり、勝手に飛行できない。今まで、殆ど意識していなかった障害が出てきた。

飛行訓練の場所の確保

先述のように、スピードのあるドローンを頭で考えながら飛行させるのでは、仕事にならないので、どうしても練習が必要だ。普段の飛行訓練も、近くには意外と場所がないもので、飛行禁止でないエリアは山林か田畑というのが実情だ。私は友人の畑を借りて練習をしている。ドローンを飛行させながら、同時にカメラの上下操作や輝度調整をするので、練習は欠かすことができない。上空ではパンすると明るさが急変することがあり、AEだけでは補正できないことがある。
上空からのアングルで撮る画像は、ハッとするような新鮮なものが多い。いつも下から見ている姫路城も、上空からのショットは意外な景色にみえた。
新しい映像を、動画に編集しBGMをいれたり、静止画を印刷に活用できれば、と思っているが、空撮は始めたばかりなので、これからがスタートだと思う。
以上、今後ドローンの導入を検討される時の参考にもなれば、と思いなるべく詳しく述べた。

幸い、私には時間だけは余裕があるので、趣味から入った世界だが、高齢者にもできそうな空撮に楽しみながら挑戦している。
最近、ドローン専業者が急増している。技術だけでなく、常に厄介な許認可を伴うのが空撮だ。それ程仕事が増えるとは思っていないが、今後は若い社員に引き継ぎながら進めていきたいと思っている。             

小野 泰生

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